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「無痛」久坂部羊

無痛タイトル:無痛
著者  :久坂部羊
出版社 :幻冬舎
読書期間:2008/01/10 - 2008/01/16
お勧め度:★★★

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見るだけですぐに症状がわかる二人の天才医師、「痛み」の感覚をまったく持たない男、別れた妻を執拗に追い回すストーカー、殺人容疑のまま施設を脱走した十四歳少女、そして刑事たちに立ちはだかる刑法39条―。神戸市内の閑静な住宅地で、これ以上ありえないほど凄惨な一家四人残虐殺害事件が起こった。凶器のハンマー他、Sサイズの帽子、LLサイズの靴痕跡など多くの遺留品があるにもかかわらず、捜査本部は具体的な犯人像を絞り込むことができなかった。そして八カ月後、精神障害児童施設に収容されている十四歳の少女が、あの事件の犯人は自分だと告白した、が…。

著者の作品は、「廃用身」「破裂」に続いて三作目です。現役医師だけあって扱うのは医療ネタ。

外見で診断できる医師を主人公に、心神喪失ならば犯罪責任を逃れられる刑法39条の問題や一家惨殺事件、別れた妻を追い回すストーカー夫など実際にある事件、そして先天性無痛症という病気を絡めた意欲作です。

見ただけで病気を特定できてしまう二人の医師が登場しますが、一方は自分を最悪の医師と呼び、小さな診療所で来るもの拒まず診療を続け、他方はその力を最大限に利用し、現代医療に一石を投じようとしています。一見便利な特殊能力ですが、必要以上に見えてしまうのは日常生活では苦労してしまいそう。

先天性無痛症という病気は、はじめて知りました。痛みを感じないことで、捻挫や骨折を繰り返し骨格形成不全となること、重篤なやけどを起こしやすいこと、精神発達に遅れを生じやすいこと等書かれています。人は痛みを繰り返し経験する中で、自分の行動を制御していく。スポーツをして筋肉痛や打ち身、捻挫などをした時の痛みを疎ましく思っていましたが、本書を読んで痛みを感じることに感謝したいくらいでした。

願わくばもう少し先天性無痛症について掘り下げて欲しかったです。この一冊だけで判断すると、「先天性無痛症=精神に障害がある」と結び付けてしまいそうです。これは極端な例であって、そうでない方も多数いるなど、医師ならではの公平な目線も少し交えた方がよかったように思います。エンターテインメントとしては最高なのですが。

「無痛」というタイトルですが、読んでいると数々の強烈な描写に痛みを感じずにはいられません。不快な表現も多々あるのですが、それでも先を知りたくなってしまう筆力はなかなかのものでした。それにしても、何であんな男と結婚したのか、不思議でたまりません・・・。

+++++

【みなさまのご意見】
本のことどもさん('08/01/22追加)
らぶほん−本に埋もれてさん('08/01/28追加)


「破裂」久坂部羊

破裂タイトル:破裂
著者  :久坂部羊
出版社 :幻冬舎
読書期間:2007/11/22 - 2007/11/28
お勧め度:★★★★

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医者の診断ミスで妻を傷つけられた元新聞記者の松野は、“医療過誤”をテーマにしたノンフィクション執筆を思いつく。大学病院の医局に勤務する若き麻酔科医・江崎の協力を得て、医師たちの過去の失敗“痛恨の症例”や被害患者の取材を開始した。その過程で、「父は手術の失敗で死んだのではないか」と疑念を抱く美貌の人妻・枝利子が、医学部のエリート助教授・香村を相手に裁判を起こす。が、病院内外の圧力により裁判は難航。その裏で医療を国で統制しようと目論む“厚生労働省のマキャベリ”佐久間が香村に接触を始める…。枝利子の裁判の行方は?権力に翻弄される江崎と松野の運命は?そして佐久間の企図する「プロジェクト天寿」とは?大学病院の実態を克明に描き、来る日本老人社会の究極の解決法まで提示する、医療ミステリーの傑作。

医療ミス、来るべき高齢化社会、大学病院での権力闘争など、医学界に関する考えうる問題を一冊に書き記した意欲作。

患者側に協力しながらも、医師の立場と患者の立場の間で揺れる麻酔科医江崎と告発されたエリート心臓外科医・香村助教授の法廷での戦いを軸に、香村の教授選、医師たちの過去の失敗に関するノンフィクション小説、医療を巡る国家プロジェクトなど複数の要素が密接に絡み合います。

話の芯となるのは医療裁判ですが、著書が一番書きたかったことは高齢化時代を迎えた先にある終末医療でしょう。先に読んだ「廃用身」では老老介護の負担軽減のため意図的に手足を切断するという衝撃的な方法を提示していました。本書ではぎりぎりまで人生を謳歌し、終わりを突然迎える「ピンピンぽっくり」を国家レベルで操作するという、これまた衝撃的な方法を提示しています。

患者当人にとって何が最良の医療なのか。残される家族にとって最良の方法とは。家族に迷惑をかけるくらいなら、死んでしまいたいという患者の気持ちもわかります。苦しい姿を見たくない気持ちもわかるし、一秒でも長く生きて欲しいという家族の気持ちもわかります。何が正しいかはわかりませんが、あえて自分の意見を言うならば、僕は医療はやはり「生かす」ことをまず考えるべきであって、安らかに亡くなることの手助けをするべきではないのではないかと思います。

本書といい「廃用身」といい、何とも言えない気味の悪さがあります。絶大な力を持つ医師が人間の死に関与する。医師が語る論理はある意味では正しく、もやもやを抱えながらも思うように反論できないのが気味の悪さの原因と思います。正解が出るのは、自分が介護を受ける時、でしょうか。

読み応えはたっぷりですが、いろいろな要素を詰め込み過ぎの印象もあって評価は少々割り引きました。それと主要な登場人物たちが死に過ぎです・・・。


「廃用身」久坂部羊

廃用身タイトル:廃用身
著者  :久坂部羊
出版社 :幻冬舎
読書期間:2007/05/14 - 2007/05/16
お勧め度:★★★★

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廃用身とは、麻痺して動かず回復しない手足をいう。漆原医師の究極の医療「Aケア」とはそれらを切断することだった! すぐそこにある、家族と医療の現実を予言する、衝撃の極近未来小説!

前半は漆原(うるしはら)糾(ただす)院長の手記、後半はその出版を手掛けた編集者の注記、という形になっています。何の予備知識もなかったので、表紙を捲ったところに書かれている名前が筆者と違うことに戸惑ってしまいました。何かの間違いかと思ったくらい。そんな戸惑いは中身を読み進めて一気に吹き飛びました。書かれているのは老人介護の悲惨な現状とそれに対する衝撃的な回答でした。

タイトルにある「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で動かなくなり、しかも回復の見込みのない手足のことをいう医学用語。漆原医師は、神戸で老人医療にあたっていたが、"患者、介護者双方にとってより良い介護とは何か"をいつも思い悩みながら、やがて画期的な療法「Aケア」を思いつく。動かなくなった廃用身を切断(Amputation)して、患者の体重を軽くするというものだった。

患者たちの同意を得て、つぎつぎに施術する漆原医師。しかし、やがて「Aケア」をマスコミがかぎつけ、残酷でスキャンダラスな「老人虐待の大事件」と報道されてしまう。漆原医師は己の欲求を老人で晴らす悪魔の使いか? それとも老人介護現場に現れた天使なのか?

「Aケア」も非常に衝撃的でしたが、その発想に至る老人医療の現状、介護現場の惨状は未来の話と笑っていられないほど衝撃的でした。老人が老人を介護する老老介護。介護疲れから発生する老人虐待や殺人。独居老人の餓死。すべての現況は介護負担と考え、漆原医師は「Aケア」を提唱します。

漆原医師の手記を読んでいると、「Aケア」が画期的な解決策のように思えてなりません。要介護者の精神的負担となるのは、他人に迷惑をかけること。それを軽減するために少しでも体を軽くし、介護者の肉体的負担も減らす。要介護者は、体が軽くなったことで床ずれも減る、とまさにいいこと尽くし。しかし、その幻想は後半部分で砕かれます。

マスコミに叩かれ、自分自身が分からなくなっていく漆原医師。少年期の性向を知ると、自己の満足のために行っていたのかという疑問が湧き上がってきます。前半部分で漆原医師に少なからず共感してしまったのなら、マスコミの攻撃は自分に向いているようにも感じ取れるでしょう。

前半と後半でバランスを取り、小説としては一応の結論を出していますが、老人介護に対する答えは書かれてはいません。コムスンの問題もあったことですし、今後の高齢化社会を自分のこととしてもっと真剣に考える必要がありそうです。

内容が内容だけにあまり強くオススメ出来ませんが、非常に衝撃的で忘れられない作品となりました。