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「家日和」奥田英朗

家日和タイトル:家日和
著者  :奥田英朗
出版社 :集英社
読書期間:2007/08/06 - 2007/08/07
お勧め度:★★★

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ネットオークションにはまる専業主婦。会社が倒産し、主夫となる営業マン。夫と妻。ちょっとずれていて、でも愛情がないわけでなく…。ずっと外にいた夫の王国か。ずっと家にいた妻の城か。ビター&スウィートな「在宅」小説。

「サニーデイ」「ここが青山」「家においでよ」「グレープフルーツ・モンスター」「夫とカーテン」「妻と玄米御飯」の六編を収録。

主人公は夫もしくは妻で、どこにでもいそうな家庭の中で起こるちょっとした事件を面白おかしく書いています。ただ、よくよく考えると、夫婦とか家族ってそんな些細なことが大事なんだよなぁって思います。

以下、短評。

サニーデイ
42歳の主婦・紀子は、使わなくなったテーブルをネットオークションに出品。思わぬ高評価に気をよくした紀子は、不用品をどんどんオークションに出してゆくのだが・・・。一時期オークションにはまっていました。出品じゃなくて、買う方。競い合って買えたときの喜びといったらもう・・・。誰でも褒められればうれしいものです。

ここが青山
14年間勤めた会社が倒産した36歳の裕輔は、妻に変わって家事一切をこなす「主夫」として再出発するのだが・・・。倒産して失業、そして主夫へ。端からみれば可哀想ですが、その人にとっては、何が向いているのかはわかりませんね。周りの目なんか気にする必要はないです。僕も「主夫」はありだと思います。

家においでよ
妻が家を出て一人暮らしが始まった38歳の正春。家具一切を持っていかれたため、インテリアショップを巡って自分好みの部屋を作り上げてゆくのだが・・・。我が家の場合、好きなものの好みが似ているので、お互い好きなものに囲まれて暮らしてます。いや、僕の意見がほぼ通っているのかも。感謝してます・・・。

グレープフルーツ・モンスター
自宅で内職をしている38歳の主婦・弘子。内職の仕事を持ってくる営業マンが変わり、それ以来変な夢を見始めるように・・・。要は欲求不満ってことでしょうか?これだけ何を言いたいのか、今一つわかりませんでした。

夫とカーテン
イラストレーター・春代の夫は、ころころと職を変え、今度はカーテン屋をやり始めるという。夫の仕事を気にしながらイラストを仕上げる春代であったが、普段より出来がよい。思い返すと夫の転職のたびに、イラストレーターとして転機が訪れていた・・・。危機意識ってやつでしょうか。一方がダメなときはもう一方が助ける。それが無意識に起こっていたのでしょうね。補い合えるよい夫婦と思います。夫の意外と頼もしい姿も○。

妻と玄米御飯
42歳の康夫は小説家。名のある文学賞を獲り、初めてのベストセラーを出した。銀行に信じられない金額のお金が・・・。結果、妻は仕事を辞め、「ロハス」に目覚めてしまった・・・。やるなら徹底してとは思いますが、みんなに共用するのはいかがなものかと・・・。自分が康夫だったら、家庭は大事だけど原稿を出版してしまうかも。

全編ピリッと皮肉が効いているのがよかったです。ほんと奥田さんの本は外れがなくって安心して読めます。

+++++

【みなさまのご意見】


「サウスバウンド」奥田英朗

サウスバウンドタイトル:サウスバウンド
著者  :奥田英朗
出版社 :角川書店
読書期間:2007/07/21 - 2007/07/24
お勧め度:★★★★

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小学校六年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても「変わってる」と言う。父が会社員だったことはない。物心ついたときからたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、ほかの家はそうではないらしいことを知った。父はどうやら国が嫌いらしい。むかし、過激派とかいうのをやっていて、税金なんか払わない、無理して学校に行く必要などないとかよく言っている。家族でどこかの南の島に移住する計画を立てているようなのだが…。型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、長編大傑作。

「イン・ザ・プール」の伊良部先生もすごいけど、この本の上原一郎もすごい人だ・・・。税金を払うとか、学校に行くとか、「義務」ということがとにかく嫌いな元過激派の父・一郎。その息子・二郎の目線で話は進み、東京で暮らす第一部、東京にいられなくなり西表島に引っ越す第二部で構成されています。

自分の父親が人とはちょっと違うってのはうすうす感じ、ただ迷惑なだけな存在な父。子供の世界だっていろいろややこしいのに、それをさらにややこしくしてくれるのだから、二郎でなくても鬱陶しいなぁと感じてしまいます。でも、数々の騒動に巻き込まれながら、二郎は一郎の思うところを理解していきます。味方につけると、なんと心強いことか!

群れずに一人で戦う。格好いいですが、いざ実践するのは難しいです・・・。第二部で出てくる環境団体のように、群れないと行動できないってのが大多数ではないでしょうか。それほど過激にならない程度に、あの行動力はまねたいものです。

最初から最後まで話の展開に淀みがなくって、すいすいと読ませられました。短編も面白いんだけど、長編の方がさらに面白いと思います。願わくば「邪魔」「最悪」のような、どっぷり浸れる長編をまた読みたいです。

+++++

【みなさまのご意見】


「ガール」奥田英朗

ガールタイトル:ガール
著者  :奥田英朗
出版社 :講談社
読書期間:2006/08/21 - 2006/08/22
お勧め度:★★★★

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さ、いっちょ真面目に働きますか。キュートで強い、肚の据わったキャリアガールたちの働きっぷりをご覧あれ。爽快オフィス小説。

「マドンナ」で40代サラリーマンを扱った奥田さんが、今度は30代OLを主人公に書きました。「ヒロくん」「マンション」「ガール」「ワーキング・マザー」「ひと回り」の5編からなる短編集。

1編だけ既婚者の話だけど、その他は独身者の話。職業はそれぞれ違う主人公5人だけど、三十路半ばを迎えると仕事やプライベートに関する漠然とした不安は付いて回るのでしょうね。職場にはあまり女性がいない典型的な技術職の職場なのですが、数人いる女性の方はそういう不安を抱いているのかと何だかちょっと気になります。

異性を書くと、時として美化しすぎたり、逆に嫌悪感を感じるほど醜くかったりと、過度に表現されるケースが多いと思いますが(女性作家が書く男子高校生とか)、本書は思い入れが適度で読んでいて心地いいです。

主人公たちが置かれた立場設定が実にリアル。だけど、結末はリアルではないように思いました。実際よりも理解ある職場ではないかなと。その分、どの話もすっきりとした結末となっていて、読後はがんばろうという気持ちにさせてもらえました。女性の心理について、勉強になったのも○。

伊良部がしゃべるツボを的確に突いた言葉や「マドンナ」「東京物語」の主人公たちの心理描写でも感じたのですが、本書でさらに奥田さんは人間観察が巧い人だと強く感じました。

+++++

【みなさまのご意見】


「町長選挙」奥田英朗

町長選挙タイトル:町長選挙
著者  :奥田英朗
出版社 :文藝春秋
読書期間:2006/08/04
お勧め度:★★★

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離島に赴任した精神科医の伊良部。そこは、島を二分して争われる町長選挙の真っ最中だった。伊良部もその騒動に巻き込まれてしまい…。「空中ブランコ」「イン・ザ・プール」でお馴染みの、トンデモ精神科医の暴走ぶり健在!
伊良部シリーズ第三弾。掲題作のほか、3本の中編を収録。

前三話は、プロ野球チームのオーナーで且つ新聞社会長、IT業界の革命児でプロ野球チームのオーナーを目指す社長、自然な美貌で人気を博す四十代の女優と明らかにモデルが存在します。これまでには見られなかった趣向で、実験的な色合いが強いのかなぁと感じました。ただ、登場人物とモデルの人物を比較しながら読むのは、それはそれで面白いのですが、やっぱり実在する人物のほうがインパクトが強いし(いい意味でも悪い意味でも)、何より伊良部の存在が薄く感じられたのが残念。

それに引き換え、掲題作では伊良部のパワーが前回。これってモデルのネタはあるのかな? まぁ、実際にここまでひどくはないけれど、田舎に行けば選挙中の接待なんて半ば公然と行われてますよね。うちの田舎も似た感じ。大きな声じゃ言えないけど。「大きな国政選挙より、町議会議員選挙とか小さな選挙のほうが恩恵に与れて楽しい」なんて言うオジサンがいましたよ。

不順な動機で渡った島で町長選挙に巻き込まれる伊良部。本能の赴くままに町長候補の両陣営から接待を受けまくりのモラルハザード状態だけど、そんな伊良部の本質を島の婆ちゃんたちはすっかり見抜いていて、野放し状態にしています。これこそ年の功でしょうか。予定調和的だけど、ハートウォーミングなラストもいい感じ。

前三話は少々不満だったのですが、この話が最終話に来ていたので満足して終われました。まだまだシリーズが続いて欲しいと思います。

+++++

【みなさまのご意見】


「マドンナ」奥田英朗

マドンナタイトル:マドンナ
著者  :奥田英朗
出版社 :講談社文庫
読書期間:2006/06/14
お勧め度:★★★★

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人事異動で新しい部下がやってきた。入社四年目の彼女は、素直で有能、その上、まずいことに好みのタイプ。苦しい片思いが始まってしまった(表題作)ほか四十代・課長達の毎日をユーモアとペーソス溢れる筆致で描く短編5編を収録。上司の事、お父さんの事、夫の事を知りたいあなたにもぴったりの一冊です。
表題作含む5編の短編を含む短編集。

四十代の課長さんが主人公の短編集。職業は違えど課長という職は同じ。中間管理職で何かと締め付けが多くって羽目を外せない、そんな課長さんたちです。その上、家庭の問題も絶妙に絡んできて、悩みの尽きないお年頃ですね。

表題作「マドンナ」は、部下に片思いしてしまった課長さんの話。部下(男性)に対抗心を燃やしたり、わざと残業を言いつけたりする課長が人間臭いです。その癖、一線を越えるほどの勇気はなし。妻には部下への恋心をしっかり察知されていて、手のひらで転がされています。世の課長さんもこんな感じかなぁと妙に納得しました。

「ダンス」は、ダンサーを目指したいという息子に反対する課長さんの話。息子が出来て「サラリーマンのどこがいいのか」と聞かれたら、自分は何て答えるだろうかなぁ。人には向き不向きがある、なんて言っていたけど、自分がサラリーマンに向いてるかなんて今だにわかりません・・・。

「総務は女房」は、営業部の最前線を渡り歩いてきた課長さんの話。総務への異動と同時に、生ぬるい総務課に改革を断行しようとするが・・・。僕は技術屋ですが、主人公と同じ感覚を持っているかもしれません。少々耳が痛いです。考え方自体を改革しなければ。

「ボス」では、同じ年の女性上司が着任、合理化をどんどん進めようとする上司に反発する課長さんの話。ただ、上司が進める合理化には大きな理由があって・・・。ラストのところで上司の意外な姿を見た主人公の後日譚をもう少し読みたかったなぁ。その後、どういう風に上司と接していくかに興味があります。

「パティオ」は、とある複合施設のパティオで読書する老人に父を重ね合わせる課長さんの話。自分が40歳になったとすると、親も結構いい年になってますね。親孝行は出来るうちにしておかないと。でも、自分に出来るのは、電話したり、長期休暇に顔を出したりすることくらいかなぁ。もうちょっとまめにしないと。

普通のサラリーマンが、日常よくある普通の出来事に普通に悩み解決する、普通にいい話。悩みとして規模は小さいけど、その分、誰でも共感し、感情移入できる話ばかりです。全編ハートフルで読了感がよく、自身を持ってオススメ出来ます。

+++++

【みなさまのご意見】


「空中ブランコ」奥田英朗

空中ブランコタイトル:空中ブランコ
著者  :奥田英朗
出版社 :文芸春秋
読書期間:2006/04/11 - 2006/04/12
お勧め度:★★★★★

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人間不信のサーカス団員、尖端恐怖症のやくざ、ノーコン病のプロ野球選手。困り果てた末に病院を訪ねてみれば…。ここはどこ?なんでこうなるの?怪作『イン・ザ・プール』から二年。トンデモ精神科医・伊良部が再び暴れ出す。
精神科医伊良部シリーズ第二弾。第131回直木賞受賞作で、5編の短編からなる連作短編集。本作で4度目の直木賞候補となり、見事受賞となりました。

前作「イン・ザ・プール」で驚かされた精神科医伊良部、看護婦マユミの変さ加減は、すでに安定の域に達していて、前作ほどの新鮮な驚きはありません。初診時の行動も完全にパターン化しているし。しかし、その分安心して読み進めることが出来ます。

今回の患者は、「相手を信じられる飛ぶときに腰が引けてしまうサーカス団員」、「先端恐怖症のヤクザ」、「義父のカツラが気になって仕方がない医師」、「新人からの突き上げを受けているプロ野球選手」、「流行作を次々に生み出す女流作家」など。既にある程度の地位まで登り詰め、日々失敗の出来ないプレッシャーの中で生活している人々です。そんな人々がプレッシャーとは無縁で自分の意思のままに行動する伊良部の姿を見て、自分を見つめなおす。反面教師として見ていた伊良部の行動を真似ることで、心が癒されるとは不思議なものです。

直木賞を受賞し、どんな方向に進むのかと興味があったのですが、エッセイを出したり、「ララピポ」見たいなのを書いたりと伸び伸びしてて好感が持てます。著者の抽斗の多さに、これからも楽しませてもらいましょう。

+++++

【みなさまのご意見】


「イン・ザ・プール」奥田英朗

イン・ザ・プールタイトル:イン・ザ・プール
著者  :奥田英朗
出版社 :文藝春秋
読書期間:2006/03/27
お勧め度:★★★★

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どっちが患者なのか?トンデモ精神科医伊良部の元を訪れた悩める者たちはその稚気に驚き、呆れ…。水泳中毒、ケータイ中毒、ヘンなビョーキの人々を描いた連作短篇集。
精神科医伊良部シリーズの第一弾。表題作含む5編の短編が収録された連作短編集です。続編「空中ブランコ」では直木賞を受賞、そして先日シリーズ最新刊「町長選挙」が刊行されました。

総合病院の跡取り息子でありながら、薄暗い地下に診療所があるってところで既にどんな人かが窺い知れます。自分の気持ちに素直な、そして全く患者を治そうと思っていない言動の数々。注射フェチでそのために医者になったとしか思えない伊良部ですが、考えずに放った一言が患者の心を絶妙に捉えて快方へと向かっていきます。実は名医?

通ってくる患者たちは、「水泳中毒になってしまった男」「勃起状態がずっと続いてる男」「誰かに後をつけられている恐怖に怯える女」「携帯電話が手放せない男」「火を消したかが気になって何事にも集中できない男」など。勃ちっぱなし以外は、身近でもいそうな気がします。でも、相談されたら、気にすることないじゃんって簡単に言ってしまいそう。当人たちの真剣さと病気の症状のギャップが面白いです。ただ、ストレスの多い現代社会、どんなことが引き金になっていつ自分の身に降りかかるかわからないから、簡単に他人事と言い捨てることが出来ません。

インパクトのあるキャラを登場させ一見軽そうながら、実は誰しもが持つ心の悩みをうまく表現した深みのある本と思います。自分が病気になったときには絶対にかかりたくないですが、伊良部のようにポジティブシンキングは見習ってもいいのではないでしょうか。

+++++

【みなさまのご意見】


「東京物語」奥田英朗

東京物語タイトル:東京物語
著者  :奥田英朗
出版社 :集英社文庫
読書期間:2006/03/24 - 2006/03/25
お勧め度:★★★★★

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1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊…。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。
退屈な田舎町を飛び出し、東京へと出てきた青年・田村久雄の18歳から29歳までを描いた連作短編集。70年代後半から80年代にかけて、時事ネタと絡めながら、久雄の成長を描いています。久雄=奥田さんでしょうか?

21歳広告代理店の下っ端として雑用をこなす久雄から始まり、18歳大学受験に失敗し東京に出てきた久雄、19歳演劇部に入り、同じ部の女の子に振りまわられる久雄、22歳広告代理店で部下が出来、かなり天狗になっている久雄、25歳フリーのコピーライターとして働いている久雄。そして最後は29歳、そこそこの成功を収め、これから人生について考えている久雄。

大きな希望を抱き東京に出てきたはずが、家庭の事情で中退し、小さな広告代理店で働き始める。前半は時系列が逆転していることで、これから先に起こる運命を知らずに日々を過ごす久雄に対して、同情にも似た気持ちになりました。部下に対して威張り散らし、うぬぼれている久雄には、そんなのでは後でしっぺ返しを食らうぞと思い、29歳の久雄の姿に果たして自分は何を本当にやりたいのかと自問しながら読み進めました。

自分からは一回りくらい前の話だけれど、妙に郷愁を刺激されます。ジョン・レノン射殺、キャンディーズ解散、「空白の一日」で入団した江川のプロ初登板、名古屋がソウルに負けた日、ベルリンの壁崩壊など、話題となった時事ネタを取り込んでいますが、久雄はそれらに関心は寄せながらも、日々を一生懸命に過ごしている。久雄を応援しながら、周りのみんなを、何より自分を応援している気になります。

登場人物たちがみんな独特の個性を放っていて、とてもさわやか。特に久雄が仕事を請け負っている会社の社長。訳がわからない話をしながらもちゃんとポイントを抑えている会話。面と向かって怒ってくれることなんてなかなかないので、それだけ期待されているんだなぁってうらやましくもありました。

切ないラストにも、読者に頑張ろうと思わせてくれる、とても読後感のよい本でした。オススメ!

+++++

【みなさまのご意見】


「邪魔」奥田英朗

邪魔タイトル:邪魔
著者  :奥田英朗
出版社 :講談社
読書期間:2006/01/28 - 2006/01/31
お勧め度:★★★★★

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始まりは、小さな放火事件にすぎなかった。似たような人々が肩を寄せ合って暮らす都下の町。手に入れたささやかな幸福を守るためなら、どんなことだってやる−現実逃避の執念が暴走するクライム・ノベルの傑作、ここに誕生。
第4回大藪春彦賞受賞作にして、2002年版「このミス」第2位の本作。著者第二作の「最悪」と同じ多視点の犯罪小説です。同じような雰囲気を感じるものの、追う立場、追われる立場の人間か描かれているせいか、本作の方が重たい雰囲気が立ち込めています。

追われる立場は及川茂則・恭子夫妻と高校生・渡辺裕輔、追う立場は刑事・九野薫。それぞれ重要な位置を担っているのは間違いないが、そのなかでも及川恭子と九野薫がメインと言えます。

普段はおとなしく、人の上に立つことをしたがらない性格の及川恭子。パート先の雇用条件を巡る争いに巻き込まれ、なぜか先頭に立って行動するようになる。一方、周囲から孤立。追い討ちをかけるように夫・茂則の会社では放火事件が発生し、夫を疑い始める・・・。その放火事件を追うのが九野薫。妻を交通事故で亡くし、以来不眠症を患っている。早い段階から及川茂則を本ボシと睨み、行動確認を取る毎日。ある日見かけた茂則の妻・恭子に事故でなくした妻の面影を感じる・・・。

人間が追い詰められた時の行動。傍からみたら、なぜそうなるのかと疑いたくなります。しかし、冷静な判断が失われてしまっているため、当人にとってはもうそれしか考えられないのでしょう。逃げ場を求めて雇用条件闘争していったり、子供のけんかに飛び出していったり(原因は放火事件)、ラストに車を飛ばしてあのような行動を取ったりなど、及川恭子の行動は素の状況下では理解しかねます。しかし、もし自分がその立場に立たされたら・・・、やはり似たような行動になるかも・・・。そう考えると背筋がゾクッとしてきます。

他方、九野刑事はというと追い詰める立場でありながら、職場の軋轢で自身も追い詰められるのが面白いです。同僚の素行調査を担当した事から逆恨みされたり、及川茂則が怪しいと言うことを上司に報告せず(それはコンビを組んだキャリアの意向であったのだけど)、署内の立場が怪しくなります。生きている意味を自問自答する様子が読んでいて苦しかったです。

「最悪」と比べて重厚な分、読後感は「最悪」よりいいとは言えませんが、僕はこちらの方が好みでした。

あと、読了後どうしてもわからなかったことがあります。どなたかわかる方、コメント欄で教えてください。(以下ネタばれ含むため、伏字とします。コメントへの回答も読んだら削除させていただくかもしれませんので、ご了承ください)

〜ここから〜
九野の義母は、妻と同じく事故死した? 入院して5日後に死亡したとの記述があったが・・・。ならば、九野が義母と思っていた人は誰? 何の目的にそんなことをしたのだろうか?
〜ここまで〜

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「最悪」奥田英朗

最悪タイトル:最悪
著者  :奥田英朗
出版社 :講談社
読書期間:2005/11/15 - 2005/11/18
お勧め度:★★★★

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その町には幸と不幸の見えない境界線がひかれている。事業拡大を目論んだ鉄工所主・川谷を襲うウラ目ウラ目の不幸の連続。町のチンピラの和也が乗りこんだのは、終わりのない落ちるばかりのジェットコースター。「損する側のままで終わりたくない!」追いつめられた男たちが出遭い、1本の導火線に火が点いた。
奥田さんのデビュー第2作。1999年の発売当時、「王様のブランチ」で松田哲夫さんが大絶賛していたのを見て購入、6年ぶりに再読しました。内容はほとんど忘れていました、、、。

前作「ウランバーナの森」で見せたファンタジックな文体から一転、「最悪」では3人の主人公たちが窮地に追い込まれていく様をリアルに描いています。設備投資を決めた川谷鉄工所・川谷信次郎は近隣との騒音トラブル、かもめ銀行行員・藤崎みどりは妹の問題とセクハラ問題、フリーター(チンピラ?)・野村和也は強盗で盗んだ金を仲間に持ち逃げされることから、負のスパイラルにはまり込んでいきます。悲しいほどに転落人生から抜け出せない。

傍からみれば、そこでその選択は無いだろうと思わずにはいられませんが、究極の状況に追い込まれた人間はもう周りが見えないのでしょう。その様がとても滑稽で、失礼だけど笑いが出てきました。誰が一番かわいそうかと言えば、やっぱり川谷信次郎かなぁと。中小企業の悲哀がもろに出ています。

3人の物語の充実振りと比べて、線が一本に繋がってからの物語が薄いことと結末がちょっと気になりました。あーでもないこーでもないとぐだぐだしている展開が、これまでのスピード感を欠いてしまっています。結末に対しては、これだけ登場人物たちに辛く当たったのに、今後に光が見えてきません。ちょっともったいない。

文句を書きましたが、デビュー2作目からこれだけ書けていれば上等ではないでしょうか。3作目となる「邪魔」でこれらが改善されていることを期待しています。

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【みなさまのご意見】