タイトル:空白の叫び
著者 :貫井徳郎
出版社 :小学館
読書期間:2007/02/22 - 2007/03/01
お勧め度:★★★★
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ふつうの少年がなぜ人を殺すのか。世の中への違和感を抱え、彼らは何を思い、どんな行動に出るのか―やがて殺人者になる三人の心の軌跡をたどった戦慄のクライム・ノベル。(上巻)
殺人者となった少年は更生できるのか。後悔はしていない。罪を償ったとも思っていない―再スタートを切った三人の挫折を鮮やかに描き出す新機軸ミステリー。(下巻)
上下巻合わせて1,200ページ弱の超大作。
殺人を犯してしまった3人の14歳の少年の目線で話は展開していきます。これまで読んだ少年犯罪モノは、重いテーマであってもラストに一筋の光明が見えるものが多かったのですが、この本はただひたすらに暗く、加害者には何の同情も沸きません。加害者の心理とそれを受け入れる世の中の道理を描いています。細かいところまで描写が行き届いていて、暗いながらも読む手は止まりませんでした。ただ、読んで何かが得られたかというと、ちょっと・・・。
三人の少年とも背景に犯罪に走る要素を持ち合わせています。一人目は、己の凡庸さを嫌悪し、常に何事かに対して苛立っている久藤美也。そんな彼の前に訳知り顔の新米教師・理穂が現れ、久藤は暴発してしまいます。
二人目は、頭脳明晰、容姿端麗、親は金持ちという、傍目から見れば何不自由のない少年・葛城拓馬。彼は、同じ屋敷で暮らす使用人の息子・英之のわがままな言動や態度に苛立ちを感じています。とある挫折が引き金となって、拓馬は英之に暴力を振るってしまいます。
三人目は、実の母から養育を放棄され、祖母と伯母に育てられた神原尚彦。経済的にも貧しく、そんな自分の境遇に不満を持っており、自分のことを考えずに遊び回る母親に怒りを感じています。祖母の死後、遺産を巡る伯母と母親の醜い争い、母親の伯母に対するひどい仕打ちを目にして、尚彦の怒りはとうとう爆発してしまいます。
三人の少年が殺人を犯してしまうまで、細かい部分まで描かれていますが、誰一人に対しても同情や共感の念は起こりませんでした。そのような状況まで追い込まれていない、といえばそれまでですが、部分的に心情を理解できても、「それで殺人を犯してしまうなら、みんな人を殺しちゃうよ」と思わずにはいられませんでした。ただ、この詳細な描写は、それぞれの変化と比較すると面白いものがあります。
三人は同じ少年院に収容され、同じ年ということもあって、お互いに意識しあいます。少年院での厳しい日々。極限状態で三人の裏の顔が徐々に見えてきます。三人の中で一番変わったのは、神原でした。普通のまじめな優しい少年に見えた神原は、自分は何も悪くなく、悪いのは自分以外の人すべて、という考えの持ち主でした。それでいて、自分の力でどうにもならないときは、平気で媚を売り、利用することに何も感じません。
少年院を出た三人に待ち構えていたのは辛い現実でした。真面目に暮らそうとしても、嫌がらせで仕事を辞めざるを得なくなったり、対人関係を壊されたり、それでなくても狭い世界をより狭められてしまいます。徐々に追い詰められていく三人は、ある計画を遂行するため、再会を果たします。
彼らに待ち構える未来は残酷でした。詳細までは書きませんが、自分が周りに対して行った行動(悪意があるにせよ、ないにせよ)が、すべて自分に跳ね返ってきました。やはり、自己中心にしかものを考えられない神原には最悪の結末が・・・。
三人が再会してから、物語の展開がスピーディーになり、俄然面白さが増しました。ただ、では結局犯罪を犯した少年たちをどのように扱っていけばよいのか、本当の意味での「更正」って何なのだろうか、と考えると、やはりどうしたらよいのかわからないわけで・・・。
少年たちは自分が犯した罪を悪いとなど思っていません。「更正」させるためには、それが悪いことであるとわからせることが、まず必要なのでしょう。そのためには、親身になって教えを説くことも犯した罪と同等の罰を与えることも同じことである、とあまり考えたくありませんが、そういう結論に達してしまいました。
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